除雪ボランティア記 in新潟

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昼間だというのに容赦なく吹き付けてくる雪でホワイトアウトしそうな道を、それでも4WD車のエンジンは唸りを上げて、時速60kはあろうかという速度を落そうとはしなかった。
慣れているせいか、たまに出会う対向車の中にはライトを点灯していない車も多く、除雪車が吹き上げた雪壁で一段と狭くなった道では、正面衝突の恐怖すら脳裏を過ぎる。

それでも印象的なのは、少なくとも路面だけは、どこまで山奥に分け入ってもほとんど完璧に除雪されていることだ。
大型の除雪車がそこここを引っ切り無しに縦横に走り回り、降り積もる雪をどんどん路傍へと払いのけていく。
この地方では、雪が降ることは、除雪を担う業者にとっては、天から1万円札が降ってくるに等しいらしい。
まさに、農業が完全に停滞する冬場の、貴重な公共事業なのだった。

そんな雪山山荘型密室ミステリー冒頭風のスリリングなドライブも、着いてみればわずかに30分強であった。
長い上越トンネルを抜けた山間の街・浦佐、そこになぜ新幹線が停まるのかと言えば、もちろんこの偉大な政治家がこの地の出身だったからだ。

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その浦佐から北東へ約10k分け入った場所に、今回の雪かきボランティアの作業地、旧入広瀬村はあった。

 

◆そもそも「雪かき」とは?

到着後宿に荷物を置いて身支度を整え、早速雪かきを開始。
とはいえ、何分にも初めてなので一体何をやるのか分からず、魚沼市の担当の人に、スコップとスノーダンプの使い方を一から教えてもらう。
このスノーダンプというものの正確な機能を、今回ほどんど初めて認識した。

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要はこれなのだが、よく見るプラスチック製ではなく、ステンレス製で重みがある。
価格は1万円以上するらしい。
それだけに、その性能もまた格別だ。
重みがあるので雪に刺さりやすく、勢いをつけて雪山に突き刺せば、通常のスコップの10倍くらいの雪量を一気に移動させることができる。もっともそれだけに、近くに人がいると危険も伴うが。
それと、腰への重量負荷も相当なものだった、、、

ところが、この地区の雪量たるや尋常ではなく、そんな高級な道具を5-10人のチームで使っても、家の周囲に積もった雪の山は一向に減らない。
前述のように、車道の雪は除雪車が処理するので、問題は屋根の上と家の周囲に積もった雪だ。
それは、基本人間が処理するしかない。
このうち、屋根に登っての雪かきは危険度が格段に高いため、そのための「資格」を持つ人でなければできない。
まあ資格と言っても講習を受ければいいのだが、これをやる人は経験も豊富で、ヘルメット等の独自の装備をマイカーに積載し用意周到な参加ぶりであった。

 

◆いざ、雪かきへ

さて、いよいよ雪かきだ。
とにかく辺り一面すべて雪なので、一体元々の地面はどんな様子なのか、まるで分らない。
そのわけの分からない地面のところどころに、排雪用の溝や池があるから、初心者には危険極まりない。

除雪の基本的な目的は、家の周囲に降り積もった雪を取り除き、窓(=採光)を確保することだ。
ほとんどの家の屋根は、雪が自然に滑り落ちる設計になっており、その場合屋根自体の雪かきは不要だ。
この地区の積雪量は、概ね2~3M。
(それでも今年は少ない方なのだそうだ。)
その上に屋根から落ちてきた雪がさらに積みあがるので、数日除雪をしなければ、大体家の2階の窓くらいまで全部隠れてしまう感じだ。
それを全部取り除くのは難しいが、最低限2階の採光が得られる程度まで処理しようというわけだ。

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                        ※窓が発掘されてきたところ

これを行う最も効率のよい方法は、最初に数人が雪山の頂上に登り、スノーダンプを使って上からどんどん雪を落とす方法である。
下にも人がいて、下の人は落ちてきた雪を排雪溝などに運ぶ連係プレーを行う。
ちなみに雪山の上は新雪が深く積もっているので、長靴に加えてかんじきの装着が欠かせない。
 ※それでも、品田女史が時々腰まで埋もれて遊んでいたのは、身体の比重の関係なのかどうか定かでないが、、

ここに参加している人たちは、とにかく皆よく動く。
なにせ連係プレーなので、初心者だからといって手を緩めるわけにもいかず、10分も作業をすれば全身から発汗がはじまり、いつしか寒さは忘れていた。
30分もすると、ネックウオーマーをはずしたりするだけでは暑さに耐えられず、下に着ているものを脱がなければならないほどだ。
そしてさらに作業を継続すると、そう、徐々に気になっていた腰への負荷が蓄積し始めるのだった、、、

 

◆休憩のひととき

その間にも、雪は容赦なく断続的に降り続いていた。
止んだかなと思い、暑いのでフードを取ると、またすぐに猛烈な降雪という繰り返し。
その降り方は、ゴアテックス生地のヤッケの表面を、「パサパサ」と音を立てて叩くほどだった。

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1時間弱作業をすると、休憩である。
休憩時には、必ず家主のお年寄りがお茶とお茶請けのお菓子などでもてなしてくれるのが習わしのようだ。

お宅によっては、お菓子だけでなく、お母さん自慢の独特の美味しい肉じゃがや秘伝のお漬物まで出てきて、雪かきのもう一つの眼目だった「減量」は、いつしか遠い追憶の彼方へと消え去っていくのだった、、、、

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休憩後には、雪を均して仕上げ作業。
それを2軒繰り返して、半日の作業を終えた。

ところで、久々に体験した新雪の感触は、ふわふわとして新鮮だった。
特に、この辺りに夜間降り積もる雪は、文字通り粉のようなサラサラのパウダースノーである。
そのパウダーが深く積もった上に、時々スライディングしてみたり、雪山から降りる際にジャンプして楽しんだりするのも、雪かきのささやかな悦楽であった。

なかには、完全に童心に戻り、雪合戦を始める人たちも、、、

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◆宿

農家民宿と銘打ったその宿は、一応「JR駅前」(※列車は日に3本ほどだが)の「一等地」にある、古民家を改造したおしゃれな建物である。

玄関を入ると土間があり、ガスストーブが焚かれて暖かい。その周囲に濡れた着物などを干せるようになっている。
さらに引き戸を抜けて奥に進むと、薪ストーブが置かれたまた別の土間がある。その上には太い梁が渡された高い吹き抜けの空間が広がる。
その周囲に、宿泊者の居室が配置される構造になっていた。

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◆宴

たぶん市が補助しているのだろうが、このボランティア企画は3食付きである。
 ※1日目の夜、2日目の朝、昼。
そのたびに、女将さんの真心のこもった、地元の食材を使ったとりどりの家庭料理がふんだんにふるまわれた。

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しかも、アルコールを摂取しない自分には関係ないが、1日目の夜は、ビール、日本酒飲み放題!
リピート参加者の多くは、主にこれがお目当てのようであった。
余った日本酒は、酒豪の参加者に戦利品として分配された。
このボランティア企画は、なんとお土産付きなのである。

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                        ※写真は、イメージです!

自己紹介あり、歓談あり、雪かき体操のおさらいあり。
美味しい料理に楽しく舌鼓を打ちながら、夜は更けていく。
しかし、6時ごろに始まった宴は、9時になっても、10時になっても勢いを増すばかりで、一向に終了の気配がない。
酒を飲まない自分は、やがてお茶を自分で入れて飲み始め、周囲の人との情報交換に励むしかなかった。

 

◆宿の主人との会話

民宿のご主人は、朴訥とした風情の人だったが、話しかけると気軽に色々なことを教えてくれた。
自分「このエリアには、何世帯くらいあるんですか?」
主人「そうだねえ、300くらいもあるかな。ほとんど高齢世帯ですよ」
自分「ということは、その300世帯のために、さっき入った温泉保養センターがあるんですか。なかなか贅沢ですね。」
主人「そう、あれは国の補助金で造ってますんでね。一定期間はどんなに利用者が少なくても営業しなきゃいけないんですね。」
自分「なるほど。たしかに不合理ですが、村の人の憩いの場があるのは羨ましい。それに、従業員のおばさん達の雇用は保証されているわけですね。」

この山村にはコンビニこそないが、それなりの公共施設が一通り揃っている。旧村役場と思われる市役所の支所、体育館、そして温泉保養センター。
少なくとも、人口30万の中野区には、温泉保養センターはない。

自分「この宿には、年間通じてどんな人が泊まるんですか?」
主人「色々ですけど、この雪かき企画以外にも、田植え体験や、木登り体験会をやってましてね。」
自分「へ~、色々工夫されてますね。」
主人「そうでもないですが、特に田植え体験は人気で、雪かきと違って、田植え~収穫まで3回ほど来るもんですから、参加者同士で結構カップルが生まれましてね。これまでに、なんと11組結婚したんですよ。」
自分「へ~、晩婚化の今時、国に貢献されてますね。」
主人「ただ、悩みは、結婚式に呼ばれるたびにご祝儀が負担でね・泣。最近は結婚するのはいいが、俺を呼ばないでくれって、予め断ってるんですよ・笑」

ちなみに、雪かきボランティアからのカップル誕生はまだだそうだが、この日の宴の盛り上がりを見る限り、そろそろか、、、

 

◆除雪ボランティア総括

宿の主人以外に、魚沼市の担当の人とも、色々お話した。
自分「そもそも、この一連の雪かきボランティアによって、県内の雪かきニーズのどれくらいが賄われているんですかね?」
担当「それは、なかなか難しい質問ですね。というのも、現状県の呼びかけに応じてボランティア受入れに賛同してくれているのは、まだごく一部の市町村だけなんですよ」
自分「他は、どうしているんですかね?」
担当「自前で雪かき隊を組織したりして、何とかしているところが多いですね。それと、同じボランティアでも、1日だけ現地集合で呼びかけているところもあります。宿泊場所をを自治体が手配しないので、その場合は、参加者は自分の車で現地に行く必要がありますね。」
自分「たしかに、魚沼市のような、この至れり尽くせりの企画を組織するのは大変ですよね。ここのような受け入れてくれる宿に加えて、駅への送り迎え、雪かきの指導、温泉入浴、、、本当にご苦労様です。」

というわけで、簡単に言うと、除雪ボランティアで地域に貢献したというよりは、除雪体験を通じて、現地の生活の一端を手取り足取り教えて頂いたという方が正確だ。
それでも、このボランティア企画には、次のような価値があるだろう。
 ①雪かき技術を身に付ける人が増える
 ②ボランティア参加者が、体験の様子を周囲に話して情報を拡散する(※例えば、このブログ)
 ③地域のお年寄りに、外部の人間との交流機会が生まれる。
 ④ボランティア参加者が、繰り返し参加するだけでなく、雪以外の季節にもそこにやってくるきっかけができる。

そんなわけで、それ自体微々たる貢献に過ぎなかった今回の除雪ボランティア体験だが、こうしてブログに起こしてみるのが、実は一番大事なのかもしれない。

なお、途中懸念された腰は何とか大事に至ることなく持ちこたえてくれた。
一晩ぐっすり寝たら、月曜日にはほぼ疲労も回復!
ランニングにも影響はなかった。
まあ、中年でも、この程度の肉体的負担だということである。

除雪ボランティアに興味を持った方は、まずは下記新潟県雪かきボランティアの情報サイトを参照されたし。
 http://www.pref.niigata.lg.jp/chiikiseisaku/yukivolunteer.html
この2月、まだ募集中の企画も残っている。

 

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